『辰巳出版、子母澤類、小嶋保(文芸・小説)』の電子書籍一覧
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「世の中は不公平にできている。たとえば、金持ちに美人はつきものだ」。高級ドイツ車のディーラーをしている奥野純一の口癖だ。今日訪ねる青山裕一郎も金持ちだった。レストランのフランチャイズ経営で儲けているという。半年前に2000万円もする車を買ったばかりなのに、今度は妻の誕生日に高級車を贈りたいという。納車するためにやってきた成城の邸宅は純和風だった。玄関から声をかけると、40代とおぼしき和服美人が姿を現す。裕一郎の妻・ゆり子だ。そう若くはないが、細身の身体に、白い牡丹が描かれた銀鼠地の着物を雅やかに着こなしている。その姿全体からは気品がこぼれていた。日頃、美人を見慣れている純一にとっても、息を呑むほどの美しさだった。どこかでこの人の声を聞いたことがある。純一は記憶を辿って思い出す。そう、ゆり子は20年以上前、純一の父の愛人だったのだ……。
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牧野啓太は上司の高辻俊平が入院したと聞き、慌てて病院を見舞う。上司の妻・紗江子は疲れ切った様子だった。彼女は40歳で凜とした品のある佇まいをしている。人によっては、紗江子の取り澄ました風情は冷たく見えて、美人特有の権高な印象を持つかもしれないが、だからこそ泣き崩れそうな表情は胸を打つ。俊平は見取れてしまった。高辻の病状はたいしたことないという話だったが、後日、肺がんだということを知る。足繁くお見舞いに通う過程で、末期状態の高辻が異様な性欲を見せて困っていると紗江子に相談された。長い間、セックスレスだったのに、今や床に這いつくばることや自慰を命令され、ついには顔面騎乗をした場面を看護婦に目撃されてしまったという。辱めばかりで生殺し状態の紗江子を見た俊平は彼女を抱き寄せ、一線を越えてしまう。婚約者がいるのにも関わらず、俊平は紗江子との激しいセックスに溺れていくが、それと反比例するように辻村は衰弱していき……。
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