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『集英社文庫、これが佐藤愛子だ(文芸・小説)』の電子書籍一覧

1 ~8件目/全8件

  • 借金取りというものは、会ったことがない間はやはり怖い存在だった。だが実際につきまとわれてみると、怖いというよりは情けなく、いやらしく、滑稽に見ようとすればいくらでも滑稽になる。実際、大のおとなが金のために目の色を変えてわめきまくるというのは本人が必死であればあるほど滑稽だ。その滑稽さがわかるようになれば人生元気に過ごせるのである。楽天的に生きるとはそういうことだ。
  • 私は欠点の多い人間で、協調性がないばかりでなく、面倒くさがりの怒りんぼう、相手かまわずいいたいことをいい、無愛想で常識を無視し、猪突猛進である。その私に、「人づきあいをよくするための性格について」何か書くようにと注文してきた。人づきあいの下手な私にわざわざそんな依頼をしてきたということは、編集部はこの私に反省の機会を与えようとしているかもしれない。
  • 人それぞれ、年それぞれ、教育それぞれ、今はいろんな経験、価値観が存在している。同感の人も不同意の人も怒りの人も軽蔑の人も、まあひとつ、「歴史を読む」といった気分で読んでいただきましょう――全エッセイ2万枚より精選した昭和40年代の、驚きと怒りにみちた日本人の姿、時代の変遷。傑作痛快エッセイ第1弾。
  • 参議院選挙に、とどっかから誘いは来ませんか? と訊く人がいる。いやしくも国事であるぞ。軽々にいうとはなにごと! 私なんぞが国政の場に出て行って何になるか。党の秘密であろうが何であろうが、おかまいなしにペーラペラペラしゃべりまくるし、味方だと思っていると突如、敵側に賛成したり、大臣の名前を忘れて渾名で呼んだり、議場が混乱すること必至である。愛子先生50代の自己省察。
  • 娘がいう。「私と二人でホテルに泊ってる時、火事になったとするでしょ。その時、怒らないでほしいのよ。きっとママは、なに火事ッ! なんで火事なんか出すんだッ、なんて怒るでしょ。まるで私が火事を出した張本人みたいに。それにセッカチだから、むやみに慌てるでしょ。早くしなさいッ! 怒鳴りまくって、ああもうメンドくさい、窓から飛ぼうなんていって。せめて飛ぶ時は一人で飛んでネ」
  • この頃「可愛いおばあちゃんになろう」というのがはやっている。だいたいが六十年も七十年も苦労に苦労を重ねて生きてきて、今更なんで若い連中から「可愛いおばあちゃん」といわれるようにならなければならないのか。舌切雀の物語を持ち出すまでもなく、ばあさんというものはイジワルな現実主義者と昔から相場が決まっているのだ。そのばあさんの伝統を、なぜここで破らねばならないのか!
  • 生まれたばかりの赤ン坊を見て、「なんて可愛いんでしょう!」と叫び声を上げる人と一緒に出産見舞いに行くと私はいつも往生する。「ねえ? 可愛いわねえ……」ムリヤリ同意を求められて、せいぜいいえるのが、「大きいですねえ、何キロ?」中には大きくない赤ン坊もいて、子猿の毛をひきむしって水浸しにしたようなのが白いキモノを着て寝ているのを見ると、「大丈夫ですか?」と心配になってくる。
  • 「×夫チャンたら、うちのムスコをサルって呼ぶのよ」と怒る人がいたから「いいじゃない、豊臣秀吉もサルっていわれたんだから」と慰めると、″シツレイねッ″と顰蹙された。親友に「あなたは思ったことをすぐに口に出すからいけない」とたしなめられたが、そんなことはない。もし思った通りいうとしたら「サルが聞いたら怒るヨ」ぐらいいう。あっちもこっちもホンネの話。疾風怒濤の50代。

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