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『社会、白水社(実用)』の電子書籍一覧

1 ~60件目/全73件

  • ジョージ・オーウェル賞受賞作品

    権威主義体制下の「プーチン時代」において、ロシア人は個人の志と国家や社会の要求という、二つの大きな圧力の間で「板ばさみ」に苛まれながらも、何が有利になるのか、「狡知」をはたらかせて生きている。本書は、抑圧下の現代ロシアを舞台に、主に7人の群像が活写される。
    「プーチン政治の映像プロデューサー」とされる国営テレビ局の最高責任者から、チェチェン戦争の凄惨な現実を目の当たりにした人権活動家、尊敬を集めた聖職者で、教会を厳しく批判した神父、クリミアで親ロシア派として住民投票し、夢と現実の間で悩む実業家、ソ連強制収容所での流刑を経て、人権団体「メモリアル」の創設に参加した活動家、プーチン政権と歩調を合わせて慈善活動する医師、国家資金横領で自宅軟禁処分を受けた演劇界きっての演出家、開放的で野心もあるが、今ある安定を望む「プーチン世代」の普通の若者たちまで、多種多様なロシア人の軌跡を追い、その集団的な潜在意識を探る。
    『ニューヨーカー』モスクワ特派員が、体制派から反体制派まで、各世代、各立場の人々に密着取材、プーチン支配下での葛藤と妥協、したたかな「ずる賢い人間」の心奥に迫る。
  • SNS依存社会で数値化される「個性」

    「AIは絵を描いたり音楽をつくったりできるが、自分の生成したものが美しいかどうかは判断できない。判断できるのは、感情を持つ人間だけだ。」(本書より)
    ハイパー資本主義における、SNS依存社会で数値化される「個性」とは? 本書は、DXとともに「自己同一性」の揺らぎが認められる時代、デジタルには生成しえない「感情」の重要性を説く──より創造的に、対話するために。
    デジタルトランスフォーメーションにともなう経済社会は、人類史上においてまさに前例のない暮らしであり、水平的かつ世俗的であろうとする社会だ。しかし、「現実の世界」は変調をきたしている。SNSでは、「ネットの向こうに生身の人間がいる」ことを忘れさせるまでに分断や憎悪が煽られる。では、どうすればいいのか。
    フランスを代表する経済学者が、デジタル消費社会における人類の生き方をめぐり、クリアな視座を提供。専門の経済学はもちろん、脳科学、哲学、文学、人類学など人文学の最新研究も適宜ダイジェスト紹介しつつ、来たるべき「文明」を展望するベストセラー・エッセイ。
  • 10年の変貌ぶりが手に取るようにわかる

    台湾が国際社会で主要なプレーヤーの一角に名を連ねるようになったのは、ここ10年ほどの奮闘の成果があったからである。この間、台湾で何が起こり、事態はどのように変化したのか──それを時系列的に振り返りながら背景を押さえていけば、台湾がなぜアジアで、世界で台頭してきたのかが浮かび上がる。それは台湾だけでなく、中国や日本も含むアジア全体、さらに米国や欧州などをも巻き込むものであり、世界情勢を読み解くカギともなる。
    本書が取り上げるのは、台湾が対中融和から対立に舵を切るきっかけとなった「ひまわり学生運動」が発生した2014年を起点とし、2023年初めまでの約10年間。政権運営、対中関係、外交、内政、経済、社会の6つのテーマ別にやさしく解説する。著者はジャーナリストとして、また大学教授として長年にわたって報道・研究に携わってきたベテランの台湾ウォッチャーだ。
    新型コロナ感染症対策や半導体メーカーTSMCの動き、ペロシ訪台といったトピックを手がかりに、台湾の政治・経済・社会、ひいてはアジアや世界の動向について理解を深めるための視点と論点を提供する。
  • シリーズ2冊
    4,455(税込)

    「最新かつ最良のプーチン伝」池田嘉郎氏推薦!

    本書は、「世界が対峙している男」、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの生誕から、ウクライナ戦争に至る現在までの70年を網羅した、圧巻の伝記だ。
    プーチンの幼少年・青年期以来の個人的な資質、その後の経歴から得た歴史観、社会観、手法、西側との関係性を丹念に追いかけ、詳述する。彼自身の言動や各種情報源を無批判に羅列するのではなく、同じ内容に関する彼の発言の変化をとらえた上で比較考察し、さらにその変化そのものから背後にある真相を把握するという、きわめて周到な分析を試みている。これが、本書の記述の信頼性を増し、本格的な伝記たる所以だ。
    BBC特派員(モスクワ、ワシントン)を経て、伝記作家として活躍する著者は、ロシアのウクライナ侵攻後に本書に加筆しているが、この暴挙も、以前に執筆した内容に見事に当てはまり、違和感がない。それまでの検証の正しさが、図らずも証明された形となっている。
    8年がかりの調査取材によって執筆された本書は、読みやすさと充実のボリューム、高い精度の分析を兼ね備え、類書の追随を許さない。まさに「プーチンの真実」に迫る必読の書。
  • 「アメリカ」という物語の偽りと希望

    1960年代末から70年代にかけてボールドウィンは、アメリカという国が、マルコムXや非暴力を唱えていたキング牧師さえも殺害し、黒人解放運動を袖にする様子を目の当たりにした。公民権運動が盛り上がりを見せ、一時は希望と期待に胸膨らませたが、結局これまでと変わらぬ白人優位の体制を選んだことを思い知らされ、深い幻滅と絶望を味わったのだ。
    アフリカン・アメリカン研究の分野をリードする著者は、ボールドウィンの足跡と数ある作品の中から、当時の暗澹たる状況に彼がどう向き合ったかを探り出した。初の黒人大統領が誕生し、今度こそアメリカは変わると思われたすぐ後でトランプ政権に代わり、白人至上主義が再燃するような今の危機的状況にこそ、ボールドウィンの作品と当時の発言を振り返り、もう一度始めるためのヒントを探る意義があると考えたからだ。
    都合よく解釈され語り継がれてきた「アメリカ」という物語を噓と断じたうえで、ボールドウィンの意図することとその背景にあるものを深く掘り下げ、当時と今を行き来しながら、われわれが直面する人種問題、ひいてはアメリカという国のありようについて論じた魂の書である。
  • 合理的な選択か、大きな間違いか

    同調は、人類と同じくらい長い歴史をもつ。エデンの園では、アダムがイヴに追従した。世界のさまざまな大宗教が広まったのは、同調の産物だといえる部分もある。
    同調によって暴虐な行為が実現してしまうこともある。ホロコーストは同調がきわめて巨大な力をもつことの証だったと言える。
    共産主義の台頭もまた、この力を表わしたものだった。現代のテロリズムは、貧困の産物でもなければ精神疾患や無教育の産物でもない。その大部分は、人が人に与える圧力の産物なのである。
    同調に単純な評価を下したところで、まったく意味をなさない。一方では、文明の存立は同調によって支えられている。その反面、同調はおぞましい行為を生み出したり独創的な力を潰したりもする。
    本書が強調するのは、同調の力学についてである。
    とりわけ息苦しい日本社会では、同調の解明が急務だ。SNSはじめ便利になればなるほど、「空気」の支配は苛烈をきわめている。
    ハーバード大学の講義から生まれた、記念碑的著作。
  • 何が前例なきことなのか?

    過去数十年で最も景気が良い時に政権与党が敗北する。すべての政党がエリートを攻撃する選挙運動を展開し、選挙前よりもエリート主義的な議会が誕生する――。
    最近の政治は筋が通らないことばかりだ。いったい何が起きていて、それはなぜ起きているのか。本書は、手垢のつくほど語られてきた民主主義の危機について比較分析から迫る試みだ。
    徹底的に歴史とデータを洗う中で、前例なき事態がいくつか見えてくる。
    ひとつは、幾多もの戦争や経済危機があったにもかかわらず、過去200年の歴史で30年間にわたって平均所得が減少したことは一度もなかったということだ。これは文明的な規模での変容と言える。
    もうひとつは、伝統的な政党制の崩壊であり、弱い政党による激しい党派性だ。
    ポピュリストの不満がいくら正当化されるといっても、一時しのぎにすぎない。私たちは依然として他の誰かに支配されなければならず、自分が好まない政策や法律に従わなければならないという避けがたい事実にぶつかる。「何が起こり、何が起こりえないのか」について世界的権威が掘り下げた結論!
  • Make the Left Great Again!

    左派の退潮が言われて久しい。
    世界中が新自由主義に覆われ、格差や貧困がクローズアップされたにもかかわらず、左派への支持は広がらなかった。いや、むしろ左派への風当たりはより強くなったと言えるかもしれない。一方、右派や極右はますます支持基盤を拡大しているように見える。
    左派退潮の分岐点はどこにあったのか? 左派を再興することは果たして可能なのか?
    「左派を再び偉大に」することを狙う本書は、この問いに正面から答える。
    1970年代、先進資本主義国では資本の収益性が劇的に低下していた。危機感を抱いた支配層は、福祉国家下の「階級的妥協」を棚上げして露骨な階級闘争を仕掛ける。
    新自由主義的な再構築で起こったことは、決して国家の「衰退」や「空洞化」ではなく、〈脱民主化〉による国家主権の権威主義化だったのだ。
    「国家の死」を寿いだ左派はここを大きく見誤ってしまった。そして、40年にわたり支配層から仕掛けられた階級闘争によって周縁化され、収奪された人々は極右運動に引き寄せられていった……。ポスト新自由主義世界を見通す左派再興の処方箋。
  • 「裏切られた」という感情の淵源を探る旅

    グローバリズムが進展し、経済格差が急速に広がるなか、各地でナショナリズムの胎動が表面化し、事象として現れ始めている。本書は、EU離脱で揺れた英国を舞台に、世界の政治を駆動する大きな潮流となったナショナリズムの発露を現場から報告する試みである。
    著者は毎日新聞の前欧州総局長。場末のパブで飲んでいる労働者・移民からケンブリッジの研究者や閣僚経験者に至るまで、取材対象は実に多彩だ。こうした人びとの意見を聞き、彼らと対話を重ねる著者の取材ぶりと、さまざまな文献にあたって検証する様子を追体験することで、英国理解が徐々に深まっていく。加えて、英国の政治が具体的にどのように運営されているかや、世論の動向をつぶさに追っているため、賛成・反対の揺れ具合が手に取るようにわかる。
    「ブレグジット以前」と「ブレグジット以後」の二部構成で、EUに「裏切られた」という庶民の声、イングランドに「裏切られた」と感じるスコットランドなど、ネイションに息づく思いや歴史観を描きながら、EUを「裏切った」英国のナショナリズムの動態を、多方面にわたるインタビューと精緻な歴史検証で描いた渾身のルポ。
  • 「ロシアが欲しいのは水である」

    資本主義の理論的解明に生涯を捧げたマルクス。彼はこの『資本論』に結実する探究の傍ら、1850年代、資本の文明化作用を阻むアジア的社会の研究から、東洋的専制を発見する。
    他方、クリミア戦争下に構想された本書で、マルクスはロシア的専制の起源に東洋的専制を見た。ロシア社会の専制化は、モンゴル来襲と諸公国の従属、いわゆる「タタールの軛」(1237-1462)によってもたらされたと分析したのである。
    このため、マルクスの娘、エリノアの手になる本書は歴史の闇に葬られ、とりわけ社会主義圏では一切刊行されなかったという。
    とはいえ、東洋的専制という問題意識は、その後、本書の序文を書いたウィットフォーゲルによって深められた。
    フランクフルトの社会研究所で頭角を現した彼は、『オリエンタル・デスポティズム』(1957年)に収斂していく研究で、専制の基底に大規模灌漑を要する「水力世界」を見出し、さらに、ソ連・中国の社会主義を東洋的専制の復活を見た。
    ウクライナ戦争が長期化する中、ロシアの強権体質への関心が高まっている。本書収録「近代ロシアの根源について」は今こそ読まれるべきだ。
  • 現職のインド外相がその「手の内」を明かす

    本書は、台頭著しいインドがどのような外交を展開していくのか、そして変貌する世界の中でどのような役割を果たしていくのかについての見取図を示したものである。著者は、インドの現職外務大臣(2019年の第二次モディ政権発足時に就任)。もともと外交官としてインド外務省で駐米大使や駐中国大使をはじめ要職を歴任し、事務方トップの外務次官を務めた。
    本書では、多極化する世界の中で国益を冷徹に追求するとともに国際的地位の向上をめざし、国際社会との調和を図っていくというインド外交の要諦が明確に論じられている。ときに叙事詩『マハーバーラタ』を援用して、友好と競争が併存する国との接し方や二国間関係のパワーバランスを変えるための外部要因の活用法など含蓄に富んだ外交論を展開する一方、日米豪が推進する「インド太平洋構想」に対していかに関わっていくかについても別途一章を立てて詳述する。「インドならではの手法」とは何か――現代インドの政治・外交に内在する論理・思考を理解するための必読書だ。
    齋木昭隆氏(元外務事務次官・日印協会理事長)推薦!「インド外交の過去・現在・未来がこの一冊で的確に示されている」
  • 革命をもたらす3.5%の力

    「ある国の人口の3.5%が非暴力で立ち上がれば、社会は変わる」。
    この「3.5%ルール」で一躍有名になったのが本書の著者で、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授のエリカ・チェノウェスだ。
    本書は、この「3.5%ルール」をはじめ、市民的抵抗の歴史とその可能性を探る試みである。どこか弱々しく、悲壮なイメージがつきまとう非暴力抵抗だが、実証的にアプローチしてみると、その印象は一変する。
    過去120年間に発生した627の革命運動の成功率を見てみよう。暴力革命と非暴力革命とではどちらが成功したのだろうか?
    1900年から2019年の間、非暴力革命は50%以上が成功した一方で、暴力革命はわずか26%の成功にとどまる。
    これは驚くべき数字である。なぜなら、暴力行為は強力で効果的であるのに対して、非暴力は弱々しく効果も乏しいという一般的な見方を覆す数字だからだ。
    他方、この10年で非暴力抵抗の成功率は下落傾向にある。「スマートな独裁」とともに、運動がデモや抗議に過度に依存していることが背景にある。
    社会を変革するための新たな方法論の本邦初訳。
  • アテンション・エコノミーの奴隷化から脱するために

    わたしたちはスマホの画面という鉢の中に閉じ込められ、「通知」に隷属する「金魚」になってしまった。電子メールはもちろん、FacebookやTwitterの話題、YouTubeやTiktokのライブ配信、NetflixやAmazon Primeの動画、AIに加工された画像などに、四六時中翻弄されつづけている。それはつまり、「あなたの注意力を奪って、お金をもうける人がいる」ということだ。
    amazon.frのベストセラー、日本上陸! フランス発、スマホ依存症を脱するための処方箋。
    本書はGAFAMやプラットフォームビジネスが人工知能を駆使してひろめる恐るべき収益モデル──アテンション・エコノミー(関心経済)の罠に陥ることなく、デジタルメディアと健康的につきあう方法を解説。スマホに奪われてしまった時間を取り戻し、依存症を脱するにはどうすればよいか? スマホ中毒の毎日を過ごしている人も「毒素」に関するエビデンスを知ることでデトックスできる。
    東京大学大学院情報学環教授の林香里さんも、〈テック企業に監視されて生きる現代人を「金魚」になぞらえ、「関心の奴隷化」のすすむ時代に警鐘を鳴らす必読書。〉と推薦。
  • 米中に対抗する「規制帝国」の全貌

    欧州の時代はもう終わったと言われる。
    EUは現在、侵略に手を染めたロシア、各国を蝕むポピュリズムや権威主義、さらにブレグジットに象徴されるあらゆる脅威に直面している。
    こうした状況下、EUを最も熱心に支持する人々でさえ、EUの衰退が避けられないと思い込んでしまうのかもしれない。
    本書によれば、実際に起きている事態は全く正反対である。すなわち、あらゆる難題にもかかわらず、EUは依然として、自らのイメージで世界を形づくる、影響力のあるスーパーパワーであり続けているのである。
    さらにEUの支配力は、ブレグジットやトランプ政権に典型的な自国第一主義によってかえって強化されたという。
    昨今のEU衰退論は、「規範形成力」が全く視野に入っていない。本書ではこの規範形成力を「ブリュッセル効果」と呼んで、プライバシーから環境・食品安全まで、その重要性がますます高まっていることを事実に基づいて確認していく。
    「規制帝国」を支えるメカニズムはいかなるものか、またこの帝国がいつまで持続するのかを見事に解明した空前絶後のEU論。
  • 人新世の病と闘う

    世界中を覆ったコロナ禍。パンデミックは突然発生したかにみえるが、実はそうでない。
    本書によれば、2015年に感染症や熱帯病が増加に転じ始めたという。かつて撲滅したはずの病が、「人新世」という新たな時代のなかで復活しつつあった。その状況下、新型コロナウイルスが世界的に蔓延する事態になったのである。
    人間の活動が環境に未曾有の影響を与えるという人新世。戦争と政情不安、難民危機と都市化、貧困の深刻化、気候変動が感染症や熱帯病の温床になっている。
    危機を克服する鍵は、意外にも冷戦期に構築された米ソの「ワクチン外交」にある。本書では、対立が激化するなかでもポリオや天然痘を制圧した両国の科学者の姿が活写されている。
    しかし、冷戦期とは異なり、「反科学」が大きな足枷になっている。途上国だけでなく、いやむしろ先進国においてワクチンの接種をはじめ科学的知見を拒絶する動きが巨大メディア帝国を通じてばらまかれているのだ。
    人新世に迫りくる多種多様な感染症との闘いにいかに向き合うべきなのか? 世界的権威による処方箋!
  • なぜ市民が参加し、年末に行なわれるのか
    「第九」が若き日本にもたらした自由と平等

    ベートーヴェンが1824年に完成させた『交響曲第九番』は世界中で演奏され、日本では毎年5万人以上が歌っている。
    この『第九』がいかにして日本に受け入れられ、市民参加型の合唱として定着していったのか。そこにはシラーやベートーヴェンの自由や兄弟愛などへの思いに共鳴し、『第九』を演奏しようとする人びとの姿が見出される。またラジオやレコードといったメディアがこのブームを支えていたことにも気づかされる。
    市民参加型として、戦後すぐの時期に日本各地で上演され、1954年には東京の勤労者音楽協議会(「労音」)が会員参加による『第九』を実現した。さらに調べを進めると、すでに戦前戦中にその土台が整っていたことがわかる。私立学校の合唱団が、新交響楽団(現NHK交響楽団)と幾度となく『第九』を共演するなど、自由学園、成城学園、玉川学園などの教育において音楽などの芸術が重要視され、盛んに合唱がおこなわれていたのである。
    これまであまり知られてこなかった松本や岡山などの『第九』上演関係者の言葉に触れながら、新しいものをみずから生み出そうという希望と熱気に満ちた若々しい日本の姿を描き出す。
  • 〈小文字の復興〉という視座

    2011年夏、ふとしたことで、会津若松市にある大熊町被災者が寄り集まる仮設住宅を訪ねることになった。それから隔週で通うようになって9年―。
    その間、あるときは被災者と寝食をともにしながら、またあるときは被災者にとって慣れない雪かきや雪下ろしを手伝いながら、被災者の発する言葉に耳を傾けてきた。
    途中で、家族が離散するのにいくつも出会ったし、急に逝ってしまった人を野辺送りすることもあった。出会いと、その何倍もの別れがあった。
    被災地の外側では、「忘却」に象徴的にみられるような社会的暴力状況が深くおぞましく進行している。
    いつごろからだっただろうか。被災者に寄り添うかたちで、「大文字の復興」ではなく「小文字の復興」を言うことに、著者はある種の空しさをおぼえるようになった。
    「小文字の復興」という言葉が被災者に届いていないことを、深く知らされたからだという。
    被災者それぞれの「生」に寄り添うということはいかにして可能なのか? 希望の「底」で問い続けた震災10年目の復興論。
  • なにが民主主義をはばむのか?

    現在、民主主義を採用する国々は世界の多数派となっている。しかし、その道のりには多くの紆余曲折があった。
    1980年代以降の急速な民主化の進行は、民主主義の権威主義体制に対する優位性を示したかにみえたが、新しい世紀を迎えてからその後退が指摘されるようになった。
    民主主義とある社会が出会うとき、安定的に調和するには多くの試練が待ち受けている。その鍵を握るのが「競争」と「秩序」である。
    自由な競争を保障することと安定的な秩序を確立すること。いずれも民主主義にとって不可欠でありながら、両者のバランスを取るのはそう簡単ではない。
    この二つの間の緊張関係に翻弄され、民主主義は、結局のところジレンマに陥ってしまう。
    そして、こうした試練が最も分かりやすい形で表れた地域のひとつに東南アジアがある。
    インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールの五カ国の現代史を比較政治学の理論をもとに多角的に跡付けたのが本書である。
    なにが民主主義をはばむのか。暴力的衝突、権力監視の侵食、操作された制度――。民主主義が超えるべき課題に斬りこむ。
  • 自らの殻を破る50冊!

    本書は一般的な意味でのブックガイドとは異なる。
    本書は、日本最大の公的国際交流機関である、国際交流基金の職員が、自分たちの「愛読書」を取り上げ、それらを通じて、国際文化交流に懸ける自らの思いを語っている。
    今、世界は著しく変化している。
    ウクライナ戦争やコロナ禍、新冷戦はじめ、国際社会において対立が深まり、人類が悲惨な戦争の教訓から得た国際協調の精神が大きく揺らいでいる。
    そもそも、グローバリゼーションの時代にあって国境を越えることが容易になったと考えられていたが、私たちは本当に〈越境〉していたのだろうか? ただ、自己の意識を肥大化させていただけではないのか? はたして他者と出会っていたのか?
    これが本書の問題関心である。
    加速し続ける現代社会において、私たちは立ち止まって、じっくり考えることができなくなっている。
    しかし、複雑化し続ける今の社会において本当に求められているのは、より長いスパンで社会を見通す目ではないだろうか。
    「書評=ブックガイド」という方法を取ることで、こうしたより根源的な問いにアプローチすることができる。国境を越えて生きるための50冊!
  • マイケル・サンデル激賞! 「よりよき再建」に向けて
    新自由主義の40年から訣別し、不平等から気候変動まで〈新しい社会〉に赴くための世界的権威の処方箋!

    新型コロナのパンデミックは、もしそれが起こらなかったら、動き出すのに何十年もかかる流れをたった一年で創り出した。私たちを歴史の変曲点に導いたのだ。この歴史的契機を生かせば、一人ひとりの運命、人類を形づくる潮流を転換できる。
    新自由主義を基礎とする現在の支配的な経済モデルは40年にわたり不平等の拡大、極度の貧困、環境破壊を生み出してきた。
    しかし、パンデミックが新自由主義への弔鐘を打ち鳴らし、他者にリスクを転嫁する自由市場システムの限界を決定的に浮き彫りにした。民営化・規制緩和・労働組合への攻撃・減税・教育福祉予算削減の時代はようやく終わったのだ。
    本書の白眉は、未来の鍵を握るのは中国だとしたところだ。アメリカが単独で世界的な事柄を決定することはもうない。新型コロナは、中国よりもアメリカの経済に大きな打撃を与えたのである。
    著者は現在、オックスフォード大学教授(開発学)。これまで、欧州復興開発銀行、OECDで勤務経験があり、南部アフリカ開発銀行総裁、ネルソン・マンデラ大統領顧問、世銀副総裁なども歴任してきた実務家でもある。
  • 「文明化」を夢見た明治日本

    文明化を追い求めた明治日本は、翻訳書が果たした役割がいまと比較にならないぐらい大きかった。そして数多くの翻訳書が刊行されるなかで、新たな概念もたくさん生まれた。
    本書では、アレクシ・ド・トクヴィルと『アメリカのデモクラシー』に焦点を当てて、その営為を明らかにする試みである。
    トクヴィルによって見出された「諸条件の平等」としてのデモクラシーについて、あるいはその帰結である「個人主義」や「多数の圧制」について、明治の日本人はいかに理解したのか? またいかに誤解したのか? 本書は徹底的に解明している。
    その際、目を向けるのは、福澤諭吉ら明治思想界のスターだけでなく、むしろ時代の脇役たちである。
    時代のあり方や将来を真剣に考えていたにもかかわらず、英傑に遮られ、注目されなかった人々。実は、彼らの西洋受容こそがその時代の典型であり、そこからしか時代の全体像は描けないのだ。
    自由民権運動に邁進した肥塚龍、社会における宗教の意味を考えた中村敬宇や明治キリスト教界、国会開設の意味を自治論からとらえ直した植木枝盛や星亨、高田早苗……トクヴィルを軸に描く、新たな明治思想史へ。
  • 宗教と伝統行事を通して見えてくる中国社会の姿

    弾圧から緩和、引き締め、そして包摂へ―毛沢東以来、共産党支配下における政治と宗教の関係は常にある種の緊張状態にある。本書は、この緊張状態の根源にあるものを掘り起こし、信仰と伝統行事のあり方を通して中国社会のもう一つの姿を描いたノンフィクションである。
    物質的な欲望と拝金主義にまみれ、もはや伝統的な信仰心など消えてしまったかのように見える中国社会だが、旧暦に基づく季節の行事や古くからのしきたりが今も脈々と息づいている。いくら繁栄しても何かが足りない―その何かを求めて多くの人びとが信仰や伝統行事に目を向け実践するありさまを描くため、著者は約一年半、こうした活動に携わる家族や団体などと行動をともにしてきた。各種の行事を観察し、ときには自ら瞑想法・呼吸法の講習会に参加する。登場するのは、妙峰山の参拝客を相手に香会を営む倪家、農村で道教の儀式や占いをする李家、地方都市で地下活動を続ける牧師など、さまざまなバックグラウンドを持つ人びとである。
    本書は二十四節気に沿った章立てで、季節の移り変わりとともにストーリーが立体的に展開する仕組みとなっている。海外の主要紙誌が絶賛した傑作だ。
  • 権威主義をもしのぐ、弱肉強食のためのロジック。

    〈プーチンの「ロシア再構築」、そして習近平の「中国の夢」などはネーション・ステートの利益を貪り、それらにつづく大国のインド、日本、トルコおよび西欧各国も程度の違いはあるものの、それぞれの叢林〔弱肉強食のジャングル〕の道に回帰しつつある。〉(本書「第七章 新全体主義、新冷戦、新たなる叢林──二十一世紀の中国と世界」より)
    専制独裁国家によって世界は紛糾することはなはだしいが、紅い帝国=習近平統治下の中国もそのうちのひとつだ。そしてそこに隠されているものとは、権威主義をもしのぐ、弱肉強食のためのロジックだ。
    本書は「紅い帝国」の台頭に警鐘を鳴らし、南シナ海問題、強圧的な外交、中国的な特色に満ちた政治経済、新全体主義、新冷戦、新たなる叢林(=ジャングル、弱肉強食)の時代について縦横無尽に切りこむ。著者の意図は、中国を民主国家に翻すことにほかならない。
    中国の「新全体主義」は世界にいかなる影響を及ぼすのか?
    『新全体主義の思想史──コロンビア大学現代中国講義』の著者による、待望の新刊。米国、ロシア、東アジアを展望した、新冷戦時代の国際政治経済論。
  • ウクライナ侵攻前史、米露75年間の覇権争い

    諜報の分野では帝政時代以来の歴史を持つソ連・ロシアと、第二次大戦後にCIAを設立した諜報の素人の米国。ソ連は冷戦時代、東欧を支配し、その勢力を全世界に広げようとしていた。一方、米国はソ連を封じ込めるために、さまざまな諜報戦(政治戦)をくりひろげた。
    冷戦に勝利した米国は、その後の戦略をあやまり、NATOをいたずらに拡大させたことで、ロシアは危機感を抱く。それをもっとも切実に感じていたのが、冷戦崩壊を現場で見ていたKGBのプーチンだった。彼は権力を握るや、ただちに反撃に出る。インターネットとソーシャルメディアを駆使した彼の政治戦は、前例のないものだった。米国はいつの間にか世論の分断で民主主義の危機にさらされ、民主主義のプロセスを無視するトランプに率いられることになった。しかも、トランプはロシアの影響下にあるという……。
    ウクライナ戦争の前史、戦後75年間の諜報活動と外交の深層からサイバー攻撃の脅威まで、『CIA秘録』のピュリツァー賞受賞作家が機密解除文書を徹底検証! 国際情勢に関心がある読者のみならず、民主主義の未来を真剣に考える方々にもご一読いただきたい。
  • 初めてのアジア通史!

    王国から共和国まで、権威主義体制から自由民主主義体制まで、多様なアジアの近現代史を統一的に描くことは果たして可能なのだろうか?
    本書は、「脱植民化」、とりわけ第二次世界大戦前後の1940年代から50年代に注目して、この問いに鮮やかに答えている。
    というのも、この時期にできあがった権力関係の布置が現在の政治体制に重要な影響を及ぼす「起源」となっているからである。本書がとくに心血を注いだのは、脱植民地化を果たしたアジア諸国でなぜ一部の国は民主化し、他は種々の独裁体制となったのか、ということである。
    鍵となるのは、植民地期末期の「制度と運動」である。まず、制度としては自治制度と王室の2つを、また運動としては武装闘争をともなう急進的なものと非武装の穏健なものの2つを、独立前後の政治変動に影響する重要な要因と位置づける。
    そして、これらの制度の存否と運動の強弱の組み合わせから、4種のリーダー集団を導き出し、独立後の体制類型を解明するのだ。
    これまで多様に見えたアジアの近現代史は、この方法により初めて統一的な視野に収められる。比較政治学の記念碑的著作!
  • 「チェルノブイリ」と「フクシマ」に通底するものとは?

    チェルノブイリは「平和の原子力」の象徴として、ソ連で最も安全で進んだ原発と言われていた。しかし、1986年4月の原子炉爆発事故によって、歴史に汚名を残す末路をたどった。事故からすでに36年が経過しようとし、その間にアレクシエービッチ『チェルノブイリの祈り 未来の物語』をはじめ、数多の著作や研究が世に問われてきたが、ソ連やロシア連邦の根深い秘密主義のために、今でも全容が解明されたわけではない。
    最新刊の本書は、構造的な欠陥をはらんだ原発が誕生した経緯から、北半球を覆った未曾有の放射能汚染、多くの人々の心身に残した傷にいたるまで、気鋭のジャーナリストが綿密な取材と調査を通して、想像を絶する災厄の全体像に迫った、渾身のノンフィクション作品だ。
    「秘密主義とうぬぼれ、傲慢と怠惰、設計と建造のずさんな基準」といった「原子力国家の心臓部を蝕む腐敗」、すなわち体制のあり方そのものに悲劇の深層を探り、人生を狂わされた生身の人々の群像を克明に描いた、調査報道の金字塔。
    本書は、『ニューヨーク・タイムズ』『タイム』『カーカス・レビュー』の年間最優秀書籍(2019年)に選出された。
  • インド人作家による驚愕と新発見の滞在記

    本書は、2016年から20年まで東京に居を構えたインド人ジャーナリストの日本滞在記である。著者はインドを代表する英字紙『ヒンドゥー』の元北京支局長で、EU代表部に勤める夫と2人の息子とともに初めて来日。4年近くに及んだ滞日生活でインドでは考えられないような日常に目を瞠り、自身の知的好奇心をフルに発揮して多くの日本人や在住外国人と意見を交わした。生活習慣の違いから日本語習得の難しさ、俳句や金継ぎなどの伝統文化、政治・社会問題まで多岐にわたるテーマについての興味深い考察が本書には詰まっている。
    外国人による日本論や日本滞在記は数多あるが、そのなかで本書を際立たせているのは何と言ってもインド人ならではの着眼点である。「中村屋のボース」とカレーの伝播、東京裁判のパル判事に対する評価、ボリウッド映画の日本への浸透、インド人コミュニティと政治・社会参加の問題など、「インドと日本」に関わる多様なトピックが俎上に乗せられている。
    ジャーナリストならではの鋭い洞察に母親としての視点を交え、自身の発見や驚きがユーモアあふれる文体で綴られたユニークな作品である。
  • 元大使が明かす、知られざるアフガン裏面史

    本書は、大学卒業後、ダリー語修得のためカーブル大学に留学して以降、一貫してアフガニスタンに関わり続けてきた元大使によるメモワール的なドキュメントである。現地にどっぷり浸かり、体験し、長年にわたって蓄積した知見をもとに書き下ろした。
    物語は、カーブル大学在学中の1978年に起きた軍事クーデターから始まる。直後のソ連軍による侵攻から、ムジャーヒディーン同士の内戦、ターリバーンとアル・カーイダの出現、9.11同時多発テロ事件を経てターリバーン政権崩壊へと続く一連の流れのなかで中心的に語られるのは、「アフガン人の生き方を守るため」の戦いに殉じた3人の人物―ターリバーンの創設者ムッラー・ウマル、北部同盟の司令官アフマッドシャー・マスード、義賊とも英雄とも評されるマジッド・カルカニー―だ。本人の肉声を聞き、関係者と議論を重ねた著者の視点や評価は、主要メディアから伝わる情報とはときに大きく異なる。
    ジャーナリストによるルポや研究者による分析とは一線を画す、異色のノンフィクション。
    宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)推薦
  • コーランにもとづく、「服従」しないための療法。

    フェミニストでありながら、イスラムのスカーフを被ること─。これは、スカーフを女性差別の象徴としてみなす西洋のフェミニストたちに理解されにくく、議論の的となってきました。でも、それが、ナディア・エル・ブガの流儀です。宗教に敬虔であることとフェミニストであることは、矛盾しません。
    イスラムというと女性蔑視の因習的な宗教という先入観や、テロと短絡的に結びつける傾向もあるでしょう。そんな誤解や偏見は、イスラム法を学んで、モスクで講和を行なう専門知識をそなえたナディアが、丁寧にときほぐします。
    この本は、イスラムの聖典をひもときながら男女平等を説き、セクシュアリテの封印を解く、フランスで人気の性科学医(セクソローグ)による自伝的エッセイです。
    セックスやジェンダーに悩むひとに、コーランにもとづく、「服従」しないための療法を!
    診療室をおとずれる多様性をかかえた患者の生に寄りそってきた著者ならではのアドバイスや語り口は、どれも魅力的で、イスラム文化のみならず性教育に関心を持つ読者にも有意義。日本の読者へのメッセージ「コロナ禍を経て、伝えたいこと。」も収録。
  • 「ナンバー2」から見たアメリカ政治の中枢

    アイゼンハワー政権のリチャード・ニクソンからトランプ政権のマイク・ペンスに至るまで、13人におよぶアメリカ副大統領の生身の姿を描いたノンフィクションである。ジャーナリストとして長年ホワイトハウスを取材してきた著者は、存命の副大統領経験者全員やその家族、側近など膨大な数の関係者へのインタビューや資料に基づいて、副大統領職という、これまで見過ごされがちだったが実はきわめて重要なポストの実態を描き出す。とくに経験者による在任中の回想からは、副大統領というポジションの難しさや大統領との関係が生々しく伝わるとともに、アメリカ政治に及ぼした影響の大きさが浮き彫りになる。副大統領公邸である海軍天文台や、「セカンドレディ」すなわち副大統領夫人について取り上げているのも興味深い。
    副大統領の視点からアメリカ政治の中枢で繰り広げられる人間関係―ときに熾烈な権力闘争であり、ときに相互協力であり、稀にではあるが友情も育まれる―を解き明かすことで、各政権の意外な一面や政治の舞台裏が垣間見えるだけでなく、現在および今後のアメリカ政治を理解する際の新たな視座を提供する。
  • 迫りくる中国の影に台湾はどう向き合っているのか?

    中国の大国化とその興隆はアジアのみならず世界に対して多大なインパクトを与えている。
    なかでも台湾は、中国が「台湾統一」を国家目標に掲げているという特異な事情もあり、中国による経済活動や文化社会交流を通じた政治的取り込みの影響をきわめて強く受けている。
    本書では、台湾の日常生活のいたるところに現れていながら、その実態が捉えがたい中国の影響力を「チャイナ・ファクター」として析出、社会科学の視点で事態を初めて理解する試みである。
    大国が軍事力などによらず影響力を行使するありかたは従来、ソフト・パワーと言われてきた。しかし、中国による「統一戦線工作」を通じた影響力行使はよりいっそう苛酷である。
    本書においては、中国人観光客の台湾来訪、中国企業による投資、マスメディア、教科書、民間宗教といったさまざまな領域での中国の影響力について事例研究を行い、その構図を解明していく。
    他方、一連の過程には台湾側からの強い抵抗と反作用があることも分かっている。
    われわれは迫りくる中国の影に果たしていかに立ち向かうのか。日本でも必読の書!
  • 選挙とは「紙でできた石つぶて」である。

    選挙は、民主主義という統治形態において必要不可欠な制度である。しかし一般市民にとっては、選挙で選ばれた政治家や政府、さらにはそれらのもとで立案・実施される政策に失望することが日常茶飯となっている。
    本書では、選挙の思想的背景、歴史的な発展経緯、世界各国での選挙政治の比較などを通じて、なぜ選挙が落胆につながるのかが明らかにされる。
    政治学研究の蓄積が示すところによれば、選挙は、国民の多くが望ましいと思う政策をもたらすことはほとんどなく、経済成長や経済格差の是正にも効果がなく、また、有権者が政府を効果的にコントロールするうえでも役に立たない。
    それでも選挙は、ある程度競合的に行なわれた場合、争いごとを平和裡に解決するという役割を持つがゆえに重要である。
    著者のプシェヴォスキは、長年にわたり選挙および民主主義に関する実証研究を世界的に牽引してきた、比較政治学の重鎮だ。
    さまざまな理想論を排除し、選挙の本質は暴力をともなう紛争や対立を回避するところにあるという本書の結論は、落胆する多くの市民を励ますに違いない。
  • 社会科学からみた「福祉国家」

    工業化された世界で、公的支出のかなりの部分を吸収する高度な福祉国家装置を持ち合わせていない国家は存在しない。
    他方、福祉国家は多様な形態を取り、給付の手広さや手厚さには幅がある。
    それゆえ、福祉国家の存在はあらゆる先進社会の特徴であるにもかかわらず、その全容は判然としない。
    これに加えて、財源や税金をめぐり常に政治的に争点化されているため、左右両極でその像が大きく引き裂かれている。
    本書は、救貧法の時代からポスト工業社会までの歴史を辿り、その多様な形態(社会民主主義的レジーム・保守主義的レジーム・自由主義的レジーム)をまず確認する。その上で給付のあり方(社会保険・社会扶助・ソーシャルワークなど)をおさえるのが特長だ。
    そこで浮かび上がるのは、福祉国家が貧困層より中間層を優遇するシステムであるということである。
    この点は、福祉国家が猛攻撃を受けたサッチャーとレーガンの「ニューライトの時代」も変わらなかったという。「ウェルフェア」から「ワークフェア」へ、福祉国家はいかに変容するのか? 入門書の決定版!
  • 原子力政策の〈問題史〉

    三一一以後、日本は大きく変わったと言われる。転換点であったことは間違いない。ただ。どう変わったのか、と言われると判然としない。とりわけ中心的な争点である「原子力政策」についてはなおさらだ。
    この間、「2030年代原発ゼロ」を掲げた民主党から自民党に政権は変わった。こうした事態を「退行」と片付けるのはやさしいが、三一一が起きた当初の視座では現在の政策を理解するのは難しくなっている。
    日本の原子力政策は三一一をへて根本的な変化を蒙った。これは自民党政権になっても変わらない。
    本書は、政権交代後の布置の変化を反映させて構想される原子力政策の新たな通史ということになる。
    新たな政策のアクターとして浮上しているのは何か? 従来の政府=電力会社という素朴な図式から、現在は経産省×外務省×文科省×米エネルギー省×青森県という構図が新たに浮上している。
    原子力は夢から陰謀まで大きな物語を引き寄せる。ただこうした語りは一方的な断罪と隣り合わせだ。今求められているのは夢/悪夢からの覚醒かもしれない。
  • トランプとトランプ主義を可能にしたものは何なのか?

    米国のトランプ政権下で進んだ民主政治の衰退と権威主義の台頭、イギリスのジョンソン首相とブレグジット、ポーランドの「法と正義」のカチンスキ、ハンガリーの「フィデス」のオルバーンといった元首の登場、ドイツ・フランス・スペインにおける極右政党の躍進……これらは同じ時代の土壌から生まれたものだと理解できるが、この世界的な現象の根底には何があるのか? 
    本書は、『グラーグ:ソ連集中収容所の歴史』で〈ピュリツァー賞〉を受賞した歴史家・ジャーナリストが、かつて交流があった「リベラル派」の人々の変貌ぶりに驚き、何が彼らを変えてしまったのかを起点に論考する、思索的エッセイだ。ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』を現代世界にあてはめて「民主政治の危機の根源」を考察し、「わたしたちはすでに民主政治の黄昏を生きている可能性がある」と警鐘を鳴らす。欧米における「権威主義の誘惑」は、むろん鏡像として、日本の現状を見ることもできる。
    本書は『ワシントン・ポスト』『フィナンシャル・タイムズ』の「年間最優秀書籍」に選出された。特別寄稿「日本語版への序文」を掲載する。
  • 後退するデモクラシー

    ここ数年、民主主義に巣食うポピュリズムが大きな注目を集めている。ブレグジットやトランプ政権はじめ各国はデモクラシーに特有の病理に苦しめられているというわけだ。
    他方、こうした潮流はいまや「民主主義の後退」として、新たな局面に入ったと捉えることもできる。
    その際、鍵となる概念が「権威主義」である。
    本書によれば、民主化の「第三の波」(ハンティントン)にもかかわらず、権威主義体制は依然として政治の日常風景となっており、現在、数において民主主義国が権威主義国を超えてはいるが、もしこの傾向が続けばその優位は逆転するという。
    私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、ビジネスパートナーや援助先として権威主義体制と関わり、また国内の権威主義化に向き合わなければならない地点に立っているのである。
    民主化の波に洗われた権威主義は、より巧妙にアプローチしてくる。強権的でむき出しの暴力ではなく、柔軟かつ狡猾な統治がその最新版だ。
    加えて、お馴染みの軍事独裁や一党独裁ではなく、個人独裁の比率が近年高まっており、その兆候になるべく早く気づくことが重要になってくる。身を守るための必読書!
  • 魔界と化した「豊穣の海」の真実

    海には陸とはまったく異なる社会があり、陸のルールは海では通用しない。そんな「無法の大洋」では、密漁や乱獲、不法投棄のほか、奴隷労働、人身売買、虐待、殺人といった犯罪行為が長年にわたって放置されてきた。本書は、決して一般の人の目に触れることのない、領海外で横行する違法・脱法行為の驚くべき実態を詳細に描いたノンフィクションである。
    わたしたちが普段口にしている海産物は、店頭に並んでいる近海物の鮮魚や干物だけではない。冷凍品や缶詰といった水産加工品の原材料の多くは、グローバル化した巨大産業である国際漁業の現場からもたらされている。そして、そのかなりの部分が、目を背けたくなるような過酷な労働や乱獲などによる生態系の破壊によって得られたものだということが、本書にはこれでもかというほど描かれている。日本の消費者が好む海の幸には目に見えないコストがかかっているという「不都合な真実」を突きつけているのだ。
    独立を宣言した海上要塞、公海上で行われる人工妊娠中絶、借金のかたに取られた船を回収するレポマンの活動など、知られざる海の実態を克明に描いた『NYタイムズ』ベストセラー。
  • オバマ政権の駐露米大使が明かす緊迫の外交

    バラク・オバマとジョー・バイデンの下で、米露関係を対立から協調へと「リセット」する政策を立案し、「ロシアの民主化と西側への統合」を推進した政治学者が回想する、外交の舞台裏とは? ヒラリー・クリントンら米政界の重鎮たちが推薦する、NYタイムズ・ベストセラー!
    著者はスタンフォード大学政治学教授。オバマ政権の対露外交を主導し、駐露大使になってからはSNSを駆使して、ロシアの一般市民にロシア語で直接語りかける異色の大使だった。しかし、国内メディアを支配して情報を統制するウラジーミル・プーチンは激怒し、新任大使を「好ましからざる人物」として、ロシアへの再入国を拒否したのだった。
    本書には、一人の学者、一人の外交官、そして家庭人が、ロシアや国際情勢の荒波にもまれながら、現実に対処してゆく姿と心理が描かれている。著者は客観的に自らとロシアを観察しており、国際情勢に影響力を行使するプーチンの内面を探る手がかりにも満ちている。
    「エピローグ」では、ドナルド・トランプ周辺とロシア、プーチンとの「怪しい関係」に章を割いている。ロシアが介入した2016年大統領選挙の真相にも迫り、興味深い。
  • 移民史研究の金字塔

    本書は、アメリカ社会に深く根を下ろしながらも、「移民」から「市民」へというスキームの外に置かれた人びとの経験を通して、アメリカすなわち「移民の国」という自画像や通説的理解を歴史的に問い直す研究である。
    「正しい」国境の越え方、「正しくない」国境の越え方はどう変容してきたのか、米墨国境はどのように主権意識と結びつくようになったのか、それ自体としては勤勉といった美徳として称賛される労働は、なぜ正規の在留資格を欠くという一点において不法就労として白眼視されるのか、ナショナリズムに呪縛されない公正な移民制度とは何か――こうした根本的な問いを立て、アメリカに国境意識が芽生えた20世紀初頭にさかのぼり、国境・主権国家・国民国家の自明性を検証する。非合法移民が問題化される過程を論じるなかで、フィリピン系、メキシコ系、日系、中国系移民らの、それぞれまったく異なる経験と法的・歴史的背景が詳細に綴られ、まさに圧巻である。
    アメリカ歴史家協会、アメリカ歴史学会、アメリカンスタディーズ学会ほか主要学会賞を総なめにした、移民史研究の金字塔。
  • 「戦争前夜」の危うい均衡?

    アメリカのペンス副大統領による「新冷戦」演説(2018年10月)は世界中に衝撃を与えた。この演説が重要なのは、トランプ大統領の対中スタンスにとどまらず、米国全体の不満を代弁したからである。
    この流れは、米中貿易戦争やコロナ禍を経て、いっそう強化されている。ポンペオ国務長官が20年7月、これまでの対中関与政策を全面否定し、「新冷戦」演説からさらに踏み込んだ発言を行ったのは記憶に新しい。
    「戦争前夜」(グレアム・アリソン)とも形容される米中関係が時代の基調となるのは間違いない。他方、「大国の論理」という眼鏡だけでは現状を大きく見誤るだろう。安易な陰謀論や中国脅威論はその産物であるが、いつも現実はより複雑である。
    本書は、北東アジアという観点から中国外交を再検証する試みである。この地平から眺めると、「新冷戦」は全く異なる相貌を帯びてくる。
    「一帯一路」でロシアの顔をうかがい、北朝鮮を制御できず、安倍外交を警戒する中国の姿がそこに浮かぶ。緊迫する中台関係も「翻弄されたのは中国か台湾か」見極めが難しい。アジア経済研究所による、覇権争いの「罠」に陥らないための最新の分析。
  • デジタル・レーニン主義の可能性

    「なぜ中国語を第二外国語として選んだのか、中国研究を行う意味は何か」
    1958年の勤評闘争のさなか、のちに国会に突入して亡くなる樺美智子が著者にこう質した。
    スターリン批判の衝撃を受けて、一国社会主義革命ではなく「世界革命」が時代の旗幟になっていた時代である。若き著者は「世界革命」には馴染めず、「日中戦後処理」に傾く。そうした見方を教えてくれたのが石橋湛山だった。東洋経済の記者となり、湛山の謦咳に接して、著者の中国観の骨格が形作られた。
    中国衰退論から中国脅威論まで、勃興する隣国に対する眼差しはどこか歪んでいる。たしかに社会主義中国には首肯しがたい出来事が多い。
    一方、「改革開放」へ舵を切り、世界第二の経済大国となった中国が眼前に屹立している。単に経済だけでなく、QRコード、5G、量子はじめ、中国は科学技術の最先端国でもある。そしてそれは政治面では〈デジタル・レーニン主義〉の相貌を持って現れつつある。
    パクス・シニカの時代をいかに乗り越えていくか? その先にあるものは何か? 透徹した眼差しで未来を捉えた新たな社会主義論!
  • 岐路に立つリベラルな文化交流の最前線

    世界には今、絶望と怒りが充満している―。
    国際情勢に楔を打ち込んだブレグジットや米中対立、各国を揺さぶるポピュリズムや権威主義体制への誘惑など挙げればきりがない。
    この流れに拍車をかけたのが、新型コロナウイルス感染拡大である。人びとの移動や交流は全く途絶えてしまった。第二次世界大戦後に構築された国際協調を旨とする戦後秩序は風前の灯である。
    この秩序の根幹にあるのは、人びとが「共感」することである。そして、「共感」の恢復を生業としているのが、国際交流基金だ。 本書は、心と心の交流に懸けた国際交流基金職員たちのルポルタージュである。
    国際文化交流とは何か、世界各地で文化と交流がいかに結び付けられているか、といった大きな問題を、本書では一人ひとりの等身大の視点から描く。
    この地平から見えてくるのは、何事も「人に始まり、人に終わる」ということだ。当たり前の平凡な結論に見えるかもしれないが、いつしかわたしたちが忘れてしまったものがここにはある。辛抱強く他者とつながり続けること。世界各地で「共感」を掘り起こす彼らの姿がいまほど切実に映る時代はないであろう。
  • SNSが政治を溶かす

    民主主義の危機――。こう言われて何が思い浮かぶだろうか?
    ファシズム、暴力、そして世界大戦の夜明け……もし、こうした1930年代の光景が浮かんできたなら、それこそ危険な兆候だ(苦笑)。
    本書によれば、1930年代が再現されることはまずない。過去のある時代が衝撃的だからと言って、それに固執しすぎると、より重要な他の時代の教訓を見逃すことになる。
    もし、いまの危機と似ている時代があるとするなら、それは1890年代だ。貧富の差が拡大、ドレフュス事件はじめ陰謀論が跋扈し、ポピュリズムが生まれたあの時代である。このときは革新主義と世界大戦で危機を乗り越えたが、現在その選択肢はない。
    本書では、クーデタ・大惨事・テクノロジーという観点から民主主義の崩壊をシミュレートする。そこにトランプはいない。中国の権威主義体制も民主主義を覆すには至らない。
    では何が脅威なのか?
    「トランプは登場したが、いずれ退場していく。ザッカーバーグは居続ける。これが民主主義の未来である」。ケンブリッジ大学政治学教授が描く、異色のデモクラシー論!
  • 油断したら投票権すら奪われる!

    公民権運動の最高潮とされる1965年投票権法の成立によって、アメリカ南部では黒人の選挙人登録を制限することができなくなり、黒人の登録率は倍以上に増えた。それから50年以上経た今、同法で保障された権利が骨抜きにされようとしている。
    本書は、1965年投票権法成立以降の半世紀を振り返り、黒人などマイノリティの投票権行使を妨げるためにあの手この手の操作が繰り返されてきた歴史を通して「民主主義国家・法治国家」アメリカの実相を描いたノンフィクションである。1965年投票権法が成立してからの選挙をめぐる動きに焦点を絞り、投票する権利をめぐる立法と司法の現場での攻防を詳しく描いたものは本書が初めて。社会運動家や一般市民、州知事、連邦議会議員、司法官僚、弁護士、法学者ら105人に及ぶインタビューを中心に、微に入り細をうがつ調査と切れ味鋭い洞察で問題点をあぶり出していく。選挙制度に「何かが起きている」と薄々感じていた人びとにその正体を明示したことでセンセーションを巻き起こした問題作。
    慶應義塾大学教授・渡辺靖氏推薦! 全米批評家協会賞最終候補作。
  • 現代インド社会の実像を的確にとらえた力作

    本書は、経済自由化以降の急激な成長によって誕生した超富裕層の実態に深く切り込み、インドの経済・政治・社会の諸相を、ときに魅力的に、ときに生々しく描き出したノンフィクションである。380億ドルという途方もない個人資産を持つインド最大の富豪ムケーシュ・アンバニをはじめ、ビジネスのさまざまな分野で成功を収めた億万長者が何人も登場するが、単なる「成金列伝」ではない。政官財の癒着、蔓延する縁故主義、地方政界やスポーツ界を蝕む汚職体質など、サクセスストーリーの裏に見え隠れする負の側面から、インド社会に根深く残る腐敗の構造をあぶり出していく。
    『フィナンシャル・タイムズ』の記者だった著者は、19世紀後半のアメリカの「金ぴか時代」に現在のインドを重ね合わせたうえで、アメリカではその後、政治の透明性向上や中産階級の拡大といった変化がもたらされたが、インドも近い将来、そうした「革新主義時代」に移行することができるだろうかと問う。
    グローバル経済の功罪、新興国の経済発展と政治、貧富の格差といった現代世界が直面するさまざまな問題を考えるうえで示唆に富み、読み応え十分の一冊。
  • 分断と対立を克服するための処方箋

    各国の社会は今、ナショナリズムやマルクス主義といった古びたイデオロギーやポピュリズムに流される低所得・低学歴層と、グローバル化する世界で利益を追求して豊かな暮らしを謳歌する高学歴エリート層とに分裂し、対立している―。そんな溝を埋め、資本主義をふたたび多くの人びとに豊かさと希望をもたらすものへと軌道修正していくにはどうすればよいのか。著者は、資本主義が本来もっていた責任感と義務感に基づく「助け合いの精神」の復興を説く。そして、そのためにはデジタル化の進展で希薄になり、価値観の相異から内部に対立さえ抱えるようになった国家や地域社会といったコミュニティの住人としての、アイデンティティーの回復が重要だと指摘する。
    開発経済学の分野を牽引してきた第一人者ならではの深い洞察をベースに、かつて鉄鋼業で栄えながら深刻な状況に陥って回復の途上にある英国シェフィールドの労働者の家庭に育った個人的な体験も交じえながら、資本主義の倫理的・道徳的側面に着想を得た方策の数々を平易な言葉で述べる。グローバル社会を生きるあらゆる世代に向けて、未来への指針を具体的に提示した野心作。
  • 内戦下の祖国シリアに一時帰還した作家が、絶え間ない爆撃の下、反体制派の人々の間で暮らしながら、それぞれの苦悩と挫折に耳を傾けた1年間の記録。語り伝えることを通じて、内戦の過酷な現実と向き合う、世界16か国で翻訳された話題作。
    アサド大統領と同じくイスラーム教アラウィー派に属する一族の出身である著者は、2011年以降、一貫して反アサド政権の立場をとり、逮捕・拘束を経て同年夏にシリアを脱出した。本書は、2012年8月から2013年7月まで、3度にわたって祖国に戻り、兵士から女性や子供まで、反アサド政権の立場にあるさまざまな人々の声を集め、その体験を書き綴ったものである。
    拠点としたのはシリア北西部のイドリブ県サラーキブ市で、住民である協力者一家の庇護を受けて取材を進めた。証言者の数が増えていくと同時に戦況は変化し、協力者一家の大半は出国を余儀なくされていく。
    小説家、ジャーナリスト、編集者として活躍するかたわら、著者は女性の自立や子供の教育を支援するNPO団体を設立し、活動を続けている。近年のシリアを見据える新しい世代の特色を鮮やかに示すと同時に、内戦下で生きる市井の人々の声を拾い上げた記録文学の白眉。
  • 20世紀中葉以降、もっとも成功を収めた文化表象のひとつ、ゾンビ。ジョージ・ロメロ監督のLiving Dead三部作で描かれたように、ゾンビにはベトナム反戦運動とカウンターカルチャーの挫折(Night of the Living Dead,1968)、ショッピングモールに象徴される極端な消費主義(Dawn of the Dead,1978)、そしてレーガン政権下で深刻化した社会的矛盾(Day of the Dead,1978)等々、つねに時代が刻印されてきた。
    世紀が変わり、映画やポップ、ゲームや書籍で(もちろん社会運動の象徴としても)、ゾンビは未曾有のブームを迎えている。この新たなブームを「大衆の珍奇さへの渇望」に回収せず、その含意を考えるところから本書は始まる……
    いや、ポピュラー・カルチャーの問題ではない! 米同時多発テロや炭疽菌攻撃を挙げるまでもなく「ゾンビの突発的発生は必ず起こる」。現に米疾病管理予防センターやハイチ政府はすでに対策を講じているではないか。
    では、いかにしてゾンビ襲来に備えるのか? この深刻な問いにマジメに挑んだのが本書だ。国際政治学の世界的権威で、ゾンビ研究学会諮問委のドレズナー先生はいかなる結論を見出したのか? 各国首脳が驚愕する、バイオハザードより百倍面白い一冊。
  • 1991年のソ連崩壊後、ユーラシア大陸の中央に位置するカザフスタンは、独立国家の建設、計画経済から市場経済への移行という、大きな変化を潜り抜けてきた。その過程で、国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げてきたのだろうか。
    豊富な資源をもとに経済発展を続けるカザフスタンは、いまや新興国のなかでも優等生の一国に数えられる。
    独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。
    本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。
    ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。
  • 米公共ラジオ局の特派員として上海に赴任した著者は、市井の人びとの生の声を聞き出すべく、無料のタクシーを走らせるというアイデアを思いついた。話を聞かせてくれれば、運賃はもらわない。
    どういう素性の人が乗ってくるかわからないタクシーという乗り物の性質上、取材対象となる乗客のバックグラウンドは実に多様だ。知識人もいれば、そうでない人もいる。地方出身の出稼ぎ労働者、大都市で生まれ育った人、恵まれた人、恵まれない人――さまざまな階層や境遇の人たちから話を聞き、彼らのストーリーを重層的に描くことで、今の中国社会の姿を立体的に浮かび上がらせる。
    乗車時に語られたストーリーを単に並べるのではなく、乗客のその後を丹念に追跡調査し、ときには海外まで足を延ばして周辺取材を敢行する。一人ひとりがどのような人生を歩んできたのか、中国共産党の強大な政治体制や目まぐるしく変わる経済状況が個人の生き方にどう影響しているのかをつぶさに見ることができる。
    中国社会の実情を浮き彫りにしつつ、中国と世界各地が相互に連動し、時代の重要な転換点を迎えていることを暗示する野心的ノンフィクション。
  • 1989年に起きた一連の出来事が、急速に歪められ、忘却されつつある。その中心にあるのが六四・天安門事件である。
    従来、「民主化の第三の波」(ハンチントン)や「国家超越的な共同社会」(M・ウォルツァー)への動きと理解されてきた〈一九八九〉は、いつのまにか「新自由主義革命」として矮小化されつつある。「民主化」ではなく「新自由主義」の確立がこの画期を特徴づけるというのだ。
    果たしてそうなのだろうか――。本書はこの疑問から出発している。
    「新自由主義革命」と事態を捉えた場合、30年後に緊迫化した香港情勢はどう理解すればいいのだろうか。また「紅い帝国」(李偉東)として世界に君臨しつつある習近平体制と民主化という視角なしに果たして対峙できるのか。
    本書は、アンドリュー・ネイサン、胡平、王丹、張博樹、李偉東、矢吹晋、石井知章、及川淳子という、これ以上望めない世界的権威が六四と一九八九という歴史的事件に挑んだ。
    その中核にあるのは、危機に瀕しているデモクラシーと市民社会の擁護である。過去のものとして暴力的に忘却されつつある両者をいかに恢復するか。その答えが六四・天安門事件にあるのだ。現代のはじまりとしての一九八九へ。
  • 我が国の人口減少は深刻な局面を迎えつつある。2008年に過去最高の1億2800万人を記録して以降、大都市を中心に高齢化が急ピッチで進んでいるのだ。総務省の研究会で人口減少が「内政上の危機」とされたのは記憶に新しい。
    危機感を抱いているのは中央だけではない。税収や住民サービスに甚大な影響を受ける地方もこの問題にどう対処するのか、当然、大きな関心をもっている。残された時間に何ができるのか、地方自治体の思いは切実である。
    本書は、この人口減少という問題に対して、小樽商科大学の教授陣と小樽市の職員が本格的にタッグを組んで、原因の究明と解決策の模索を行った、他に例を見ない試みである。
    小樽市は、明治以降、北海道の玄関口として栄えたが、樺太の喪失や鰊の不漁などを受けて衰退の一途を辿るようになる。人口は1964年の20万人をピークに減少に転じ、現在は11万人にまで減ったが、ここ最近は毎年2000人ペースで人口が減るという異常事態に直面している。
    本書はこうした問題に対して社会科学的分析と提言を行う。地方創生の掛け声やインバウンドの熱狂のなかで見過ごされている問題はなにか。そもそも都市とは何なのか。全国の市町村を勇気付ける報告。
  • 「脱成長」を掲げる論調が顕著になってきた。背景にあるのは、所得格差の拡大や高齢化はじめ、社会構造の根本的な変化である。
    加えて、これ以上グローバリゼーションを推し進めるべきではないという不満もあちこちで聞こえてくる。ブレグジットとトランプ誕生はその象徴的な出来事だった。
    しかし、問題の本質は「脱成長」やグローバル化にあるのだろうか。これが本書の出発点である。
    『援助じゃアフリカは発展しない』(東洋経済新報社)で一世を風靡し、「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた著者によると、リベラル・デモクラシーの凋落と権威主義国家の台頭にこそ、事態を見極める糸口がある。
    中国はじめ権威主義国家の経済成長が顕著であるのに対し、欧米の民主主義国は苦境に喘いでいる。途上国は欧米ではなく中国をモデルに経済運営するようになった。
    それでは中国のように欧米も民主主義を打ち捨てて権威主義国家化すればいいのか。もちろん、そうではない。デモクラシーが経済成長を取り戻すこと。ここに本書の大きな力点が置かれる。政治・経済・社会を覆う「短期志向」からの脱却が成長の鍵を握っている。
  • 1,584(税込)
    著:
    木村晴美
    著:
    岡典栄
    レーベル: ――
    出版社: 白水社

    新元号の発表会見の際、手話通訳者を目にしませんでしたか。気象庁の緊急記者会見でも、手話通訳をつける試行が始まりました。日本手話を言語として認め、ろう者とろう者以外の者が共生できる社会を目指すことを主旨にした「手話言語条例」を制定した自治体の数は、2018年からの1年間で倍増しました。いま、手話通訳者が強く求められています。
    手話通訳は、聴覚障害という障害を持った人たちを支援する、福祉の目的だけのものではありません。聞こえない人と聞こえる人をつないで両者にとって利益をもたらすための仕事です。
    手話はどんなことばなのか、手話通訳者になるにはどんな方法があるのか、どんな場面で必要とされるのかを紹介します。
    さらに、教育、医療、スポーツや国際会議、手話のニュースキャスターなど、さまざまな分野で活躍する第一線の手話通訳者たちの声を通して、手話、そして手話通訳の魅力をお届けします。
  • 刊行されるや、黄色いベスト運動に揺れるフランスにおいてAmazonの経済エッセイ部門で第1位獲得!
    フランスを代表する経済学者が、1968年5月革命以後の「世界史の構造」を総括! 新たな人文知のため、デジタル社会における「経済成長」の真実に迫る。
    68年の学生運動は何だったのか、70年代に左派が過激化したのはなぜか。工業化社会からサービス社会に移行した80年代の保守革命を経て、90年代のIT革命により実現された21世紀のソーシャル・ネットワーク──SNSが「68年」の理想を体現しつつ社会を分断するのはなぜか。
    アーレントが分析したナチス台頭時の群衆と現在の大衆を弁別した上で、著者は、リベラル左派エリート層にも「労働のない労働者の社会」にも警鐘を鳴らす。
    ポピュリストはなぜ台頭するのか、GAFAとはどう付き合うべきか。AI革命で人間の仕事はどうなる?
    マルクスをはじめフーラスティエやクルーグマンやセンら経済学者、ラカンやドゥルーズ=ガタリら思想家のみならず、『ホモ・デウス』、ネットフリックスや2ちゃんねるまで目配りよく援用し、iPhone世代の将来を左右する問題を考察。
  • 1989年の天安門事件は、現在の中国の「姿」を決定づけ、世界史に刻まれた大事件だったにもかかわらず、殺害された人びとの名前や人数のほか、北京のどこで、どのようにして「鎮圧」が行われたのか、なぜこのような悲劇に至ったのかなど、その詳細は未だ明らかになっていない。
    本書は、「六四天安門」にかかわって懲役刑を受けた一般市民へのインタビューを中心に、著者自身のエッセイも加えた証言文集である。現場にいた者にしかわからない、細部にわたる生々しい目撃証言が次々に飛び出すばかりではなく、取材対象者たちがその後の人生において経験した差別や官権の横暴、刑務所内部の実態、また人権がないがしろにされる社会の恐ろしさなどが白日の下にさらされる。
    事件直後はもちろん習近平体制下の今に至るまで、中国社会においてこうした取材や聞き書きをする(またはそれに応じる)こと自体きわめて危険な行為であり、実際、著者はその過程で中国脱出を余儀なくされている。聞くのも、話すのも、書くのも、まさに命懸けの、門外不出のドキュメント! 序文=イアン・ジョンソン(ジャーナリスト)
  • 自由に発言することを望んで、中国社会科学院哲学研究所を解雇された著者は現在、米コロンビア大学で教鞭を執りながら、祖国を見詰める。
    本書はそのコロンビア大学で開講されている「現代中国の九大思潮」がもとになっている。
    その最大の特長は、現代中国を従来のように権威主義体制として理解せず、「新全体主義」と捉えていることである。
    ただ、この強権体制を見る視点は独裁一色というような単純なものではない。
    ポスト「六四」天安門の思想状況は、高度経済成長とともに、党=国家体制へと回収されていく強力なナショナリズムが醸成されたのは確かに事実である。
    だが、その過程は、グローバル化や通信技術の革新の下で展開しており、一党独裁を支える政治・社会思想はかつてのように一枚岩ではない。
    こうした新たな眼鏡を持つことが、一党独裁を掘り崩していく知的な土台になる。本書が「新全体主義の知識社会学」と自ら規定しているのは、この意味においてである。世界的に注目される自由の闘士による中国批判理論構築の試み。
  • 本書は、巨大国家の実像を数字と生活から探る試みである。
    例えば、インドでは「牛肉はタブー」だと思っている者は多い。2015年に起きたダドリ・リンチ事件でこうした印象はさらに強まった。この事件は、ムスリム一家が牛を殺して食べ、その肉を保存しているという噂が流れ、それを聞いたヒンドゥー教徒群衆がその家に押し入り、集団リンチの末に一家を死傷した事件である。
    ただ、数字はまた別のことを語っている。実はインドはブラジル、アメリカ、オーストラリアと並ぶ牛肉輸出大国なのだ。
    ヒンドゥー教において牛は神聖とされ、近代インド最大の分水嶺となったシパーヒーの反乱(1857年)もこの問題から起きたと言えるが、インドを考える場合、歴史から理解しようとするとかえって誤ることが多い。
    こうして数字にこだわってインドを眺めてみると、これまでの印象が実態と大きく異なることが随所で分かってくる。これが従来のインド論にはない本書の最大の特長といえる。 本書のもうひとつの魅力は、著者が国際交流基金で「文化交流」を担っていることだろう。その最前線では何が起きているのか? 言語をめぐる日中の争奪戦など今までにない奥行の入門書!
  • 敗戦70年を迎えるあたりから、戦後思潮を問い直す従来の動向を大きく乗り越える著作が世に問われるようになった。そこでは戦後史の「正体」や戦後日本の「核心」が焦点になっている。
    ここで分析の俎上に載せられるのは「戦後日本の国体」(篠田英朗)である。暗黙の前提として受け容れられてきた日本国憲法と日米安保条約からなる戦後体制に根本的な疑義が突きつけられるようになったのである。
    「一五年安保」における国論の混乱は、こうした疑義に拍車をかけている。
    本書は、「戦後民主主義」の旗手とされる丸山眞男の思想と行動を辿ることで、この問題を捉え直そうとする試みである。
    戦後の「政治の季節」に颯爽と登場して以降の丸山像は果たして実像を反映したものなのだろうか? 彼の人民主権理解はいかなる過程で獲得されたものなのか? 「六〇安保」以降の日本政治思想史講義はいかなる射程を有していたのか?
    本書では、処女作「政治学に於ける国家の概念」以降の丸山の論文、座談、書簡、講義録を広範かつ詳細に検討しながら、これらの問題に明解な回答を与えていく。その先に戦後日本と未来の新たな形が浮かび上がる。渾身の書き下ろし。
  • 中国と日本の間にインドが割って入り、「中印二強」時代がやってくるのはもはや時間の問題である。インドの成長で、中国の台頭によって引き起こされたものと同様の激変がアジアで起きる――。本書は、政界、経済界のみならず、庶民の生活にも深く分け入った元朝日新聞ニューデリー支局長が、チャイナ・パワーに対峙しつつインドを取り込もうとする日本の戦略を軸に、10年後、20年後のアジアと日本を考えるための手がかりを明示したルポである。
    デリー・ムンバイ産業回廊(DMIC)構想など巨大プロジェクトをいくつも立ち上げ、外資を呼び込みつつインフラ整備に邁進するインド。一方、国内では、世界一ともいわれる貧富の差、カーストに基づく根強い差別、頻発する宗教・民族紛争など、深刻な社会問題を多く抱える。「ばらばらな人びとが好き勝手言い合う社会」をまとめるものはもはや国旗と国境しかないと言っても過言ではない。今のモディ政権は、国民統合の原理に薄いインド社会を「ヒンドゥー・ナショナリズム」の枠で固めようとしているが、懐につねに火種を抱えており、その足場は盤石とは言いがたい。
    インドが併せ持つ、こうしたチャンスとリスクを冷徹に見極めるための視点を提供する。

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